國體護持總論
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破棄

次に、「破棄」とは、一旦成立し、しかもその效力要件(有效要件)を滿たしてゐるので「無效」ではなく、あくまでも「有效」ではあつたが、當初からその立法行爲(占領憲法)自體に内容的な缺陷や瑕疵があつて、その法をそのまま容認して繼續させることができない場合(始源的事情の場合)、あるいは、その施行後に、立法行爲時(占領憲法制定時)に存在した社會環境や政治環境などに變化が生まれ、立法行爲(占領憲法)をその後も繼續して施行しえない事情が生じた場合(後發的事情の場合)において、その立法行爲(占領憲法)を將來に向かつてその效力を消滅させることである。つまり、始源的事情の場合であつても、その瑕疵の程度が「無效」とするまでに至らないし、また、後發的事情の場合であつても、その事情の變更によつて當該立法行爲(占領憲法)が遡つて無效となることまでを意味するものではない。しかし、「無效」の場合と異なり、「破棄」は、そのための新たな立法行爲(占領憲法破棄決議)が必要となる。そして、「破棄」されるまでは「有效」であるから、これを破棄するといふのは占領憲法の全面的かつ消極的な「改正」(削除改正)であつて占領憲法第九十六條の改正手續によらなければならない。さらに、破棄した結果、帝國憲法に復元するのか、新たな成文憲法を制定するのか、あるいは成文憲法を制定しない(不文憲法)とするのかといふ點については、破棄決議(立法行爲)において確定されなければならないことになる。

このやうに、「破棄」とは、私法の領域でいふ「取消」と似たところがある。しかし、この「破棄」の用語は、法律用語として一義的な嚴密さはなく、占領憲法が「無效」であるから、これを形式上も排除する趣旨で「破棄」するといふ用語例もありうるから、これは法律用語といふよりも日常用語ないしは政治用語であつて、嚴格な定義を求められる「效力論」の領域にこの不明確な概念である「破棄」の概念を持ち込むことは妥當ではない。

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