國體護持總論
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失效

さらに、これに類似したものとして「失效」がある。これは、一旦成立し、しかもその效力要件(有效要件)を滿たしてゐるので「無效」ではなく、あくまでも「有效」ではあつたが、その施行後に、立法行爲時(占領憲法制定時)に存在した社會環境や政治環境などに變化が生まれ、立法行爲(占領憲法)をその後も繼續して施行しえない事由が發生して、その立法行爲(占領憲法)を將來に向かつて(あるいは制定時に遡つて)その效力が消滅することが確定することである。この「失效」には、改めて「失效」のための立法行爲(占領憲法失效決議)は不要である。これは、「無效」の場合と同樣であり、「破棄」の場合と異なる。

そして、この「失效」は、私法の領域でいふ「解除條件付法律行爲」と似てゐる。つまり、これは、ある條件が成就すれば、それまで效力のあつた法律行爲が自動的に消滅する場合であつて、この條件のことを「解除條件」といふ。たとへば、落第したら奬學金の給付を取りやめるといふやうに、法律行爲の效力の消滅を將來の不確實な事實にかからしめることを條件(解除條件)とする契約のやうな場合であり、もし、落第すれば、改めて解除などの意思表示をすることなく當然に消滅するのである。

また、私法の領域において、この解除條件成就による「失效」と類似したものとして、「事情變更の原則」による「失效」がある。これは、當事者が豫期しえず、當事者が認識してゐた信賴關係を破綻させるやうな著しい事情の變更が事後に發生した場合には、その契約をその事情の變更の樣相に對應させて改訂させ、あるいは契約を存續できない程度の事情が發生したのであればこれを消滅(解除、失效)させるといふ法理である。

これに關連する學説として、占領憲法無效説の一種とされてゐる占領憲法失效説(菅原裕)がある。この失效説は、我が國が本土だけの獨立を回復したこと(占領終了)を解除條件とし、あるいは、その背景には本土の獨立の回復を以て社會環境や政治環境の變更があつたとして、その時點において占領憲法は「失效」したとする見解であり、憲法としては無效であるが、占領憲法といふ名の占領目的の「管理基本法」としては本土の回復(占領終了)までは有效であつたとする。

しかし、占領憲法は、最高法規性(最高規範性)を謳ひ(第九十七條)、憲法尊重擁護義務(第九十九條)を規定することからしても永續性を豫定してをり、我が國の本土だけが獨立するまでの時限立法(限時法)の趣旨を含んではゐない。あくまでも「恆久法」としての體裁を整へてゐる。

また、ポツダム宣言第七項には、「右の如き新秩序が建設せられ、且日本國の戰爭遂行能力が破碎せられたることの確證あるに至る迄は、聯合國の指定すべき日本國領域内の諸地點は、吾等の茲に指示する基本的目的の達成を確保する爲占領せらるべし。」とあり、わが國本土の獨立回復(占領終了)は、ポツダム宣言による「保障占領」の目的達成後に實現されることが豫定されてゐた。それゆゑ、本土の獨立回復(占領終了)は當初から豫期されたことであつて、その後の獨立の回復は豫期しえない事情の變更ではない。

また、帝國憲法の改正として成立したとする占領憲法が何ゆゑに「占領管理法」といふ議會などの立法機關により成立する「法律」なのか。憲法改正としては無效であるのに、その下位法規である「法律」として有效であるとする根據は何か。この管理基本法が本土獨立回復(占領終了)を解除條件とする根據はどこにあるのか。だれがそれを解除條件として決定(合意)したのか。この「管理基本法」といふ命名が、占領憲法を揶揄するためのものであれば單なる感情論であつて法律論ではない。このやうな點が解明されてゐないために、この失效説(舊無效論)は説得力を缺いてゐると云はざるをえないのである。

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