國體護持總論
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無效理由その四 成文廢止の無效性

では、次に、規範國體それ自體を廢止することはできないとしても、成文法制度を廢止して再び不文法制度へ移行するために、成文の廢止をすることが許されるのではないかといふ疑問についても答へる必要がある。つまり、『皇室典範及皇室典範增補廢止ノ件』は、「明治二十二年裁定ノ皇室典範竝ニ明治四十年及大正七年裁定ノ皇室典範增補ハ昭和二十二年五月二日限リ之ヲ廢止ス」とするだけで、これは規範の廢止(無規範化)ではなく、成文の廢止(不文法化)として理解し得る餘地があるからである。

そもそも、成文法化した條規と不文法の趣旨とに齟齬があれば、成文法規の條規を改正して不文法の趣旨に近づけるといふ方法の他に、形式的には改正せずに解釋變更して不文法の趣旨に近づけるといふ方法もありうる。

しかし、第一章で述べたとほり、不文法制は、規範の適用と運用に柔軟性があるものの、その柔軟性の高さが規範の適用と運用における豫測性の低さと表裏の關係にあることから、その豫測性を高めるために徐々に成文法制化されてきた。そして、成文化が進んでその豫測性が高まれば高まるほど逆に柔軟性が低くなり、形式的な硬直した規範の適用と運用といふ弊害を生じる。ところが、人々の一般的な規範意識は、法の豫測性を基軸として維持されるものであることからすると、成文法制化は必然的な趨勢となつてゐる。このことからして、我が國も成文法制化に踏み切つたのであつて、これを完全否定することは成文法制化の意義を損なふことになり、却つて恣意的解釋や運用がなされ、法治主義を蔑ろにする危險があるので、できる限り避けるべきである。

正統典範の一部を一旦成文法化したのは、皇位繼承の順位などに關する爭ひや混亂を回避して豫測性を高めるためであつて、それこそが法治主義の趣旨に基づくものなのである。それが明治天皇の御叡慮でもあり、これに從ふことこそが承詔必謹であり法治主義なのである。從つて、明治典範を廢止して、それ以前の不文法(自然法)に復歸することについては、明治天皇の御叡意を蔑ろにするに等しく、しかも、それが占領下の非獨立時代における強制下のものであつたことからして、やはりこれを有效であるとすることはできない。成文を廢止して無規範化することは規範國體に含まれる法治主義に違反するために無效であることは前述のとほりであるが、たとへ規範國體の規範性を否定しなくとも、それ以前に、成文を廢止して不文法制度に戻ること自體が規範國體に含まれる法治主義に反して無效といふことである。蓋し、「國體の支配」の原則によつて、天皇と雖も國體の下にあり、國體と典憲の趣旨に反する成文の廢止は、たとへ詔敕の名において爲されたものであるとしても、やはり無效であると言はざるを得ないのである。

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