國體護持總論
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無效理由その五 典憲の改正義務の不存在

ポツダム宣言には、帝國憲法と明治典範の改正を義務づける條項が全く存在しなかつた。勿論、降伏文書にもそれを義務づける規定はなかつた。むしろ、ポツダム宣言は、日本軍の無條件降伏(第十三項)、完全武裝解除(第九項)、民主主義的傾向の復活強化(第十項)などを促進させることを要求してゐたのであり、降伏文書をも含めて總合的に判斷しても、決して典憲の改正までを要求してゐなかつた。

なほ、典憲の改正義務があるとする見解は、ポツダム宣言第六項、第十項及び第十二項を根據とするやうである。第六項には、「吾等は、無責任なる軍國主義が世界より驅逐せらるるに至る迄は、平和、安全及正義の新秩序が生じ得ざることを主張するものなるを以て、日本國國民を欺瞞し、之をして世界征服の擧に出づるの過誤を犯さしめたる者の權力及勢力は、永久に除去せられざるべからず。」とあり、第十項には、「吾等は、日本人を民族として奴隷化せんとし、又は國民として滅亡せしめんとするの意圖を有するものに非ざるも、吾等の俘虜を虐待せる者を含む一切の戰爭犯罪人に對しては、嚴重なる處罰を加へらるべし。日本國政府は、日本國國民の間に於ける民主主義的傾向の復活強化に對する一切の障礙を除去すべし。言論、宗教及思想の自由竝に基本的人權の尊重は、確立せらるべし。」とあり、さらに、第十二項には、「前記諸目的が達成せられ、且日本國國民の自由に表明せる意思に從ひ平和的傾向を有し且責任ある政府が樹立せらるるに於ては、聯合國の占領軍は、直に日本國より撤收せらるべし。」とある。しかし、まづ、第六項と第十項の意味とは同趣旨である。つまり、「過誤を犯さしめたる者の權力及勢力は、永久に除去せられざるべからず。」(第六項)と「一切の戰爭犯罪人に對しては、嚴重なる處罰を加へらるべし。」(第十項)とは、戰犯處罰を意味するものにすぎない。「權力及勢力は、永久に除去」することと憲法改正とは全く關係がない。また、第十二項は、撤収の時期を定めたものであつて、「日本國國民の自由に表明せる意思に從ひ平和的傾向を有し且責任ある政府が樹立」とあることから、これは憲法改正ではなく、撤退の要件として民主主義による平和的傾向のある政府の樹立を求めてゐるにすぎないのである。從つて、これらを以て「國體變更」や「憲法改正」を義務付けたと解釋することは到底できないものである。

現に、ポツダム宣言を起草した「三人委員會」(國務長官代理ジョセフ・グルー、陸軍長官ヘンリー・スティムソン、海軍長官ジェームズ・フォレスタル)の一人であるジョセフ・グルー(元駐日大使)は、後になつて、「新しく憲法を制定するといふやうな根本的、全面的な憲法改正は考へられてゐなかつた」と述懷してゐたのである。

つまり、連合國側ですら、そのやうな解釋をする者は居ないのに、あへてこれを我が國に不利に解釋しようとする見解は、「賣國」の意圖と目的によるものに他ならない。

また、我が政府が連合國側へポツダム宣言受諾に關する照會をしたことに對し、昭和二十年八月十二日の連合國側(バーンズ米國務長官)の回答(バーンズ回答)には、「最終的ノ日本國政府ノ形態ハポツダム宣言ニ遵ヒ日本國國民ノ自由ニ表明スル意思ニ依リ決定セラルベキモノトス」とあり、これからしても改正義務まで受け入れたものでないことは明らかである。

なほ、第二章でも述べたとほり、ポツダム宣言の受諾と降伏文書の調印とは、その法的性質は、いづれも帝國憲法第十三條の講和大權に基づく講和條約(獨立喪失條約)であつたが、これまでの國際法における講和條約の方法によらない異例のものであつたことから、政府の國内手續においてはこれを「條約」としては扱つてゐなかつた。當時の樞密院官制によると、「國際條約ノ締結」は諮詢事項となつてゐたにもかかはらず、ポツダム宣言の受諾と降伏文書の調印については、この諮詢手續がなされてゐなかつたし、官報には、これを「條約」欄ではなく、「布告」欄に登載して公示された。これは、これまでの國際法による慣例を著しく踏み外した異例の事態に當惑した結果であつたにすぎない。關東大震災のとき、樞密院の諮詢を經ずに緊急敕令が發令されたことがあつたやうに、國家緊急時においては、手續が履踐されずに法規が成立することは當然にありうることなのである。

從つて、このやうな國内手續を履踐しなかつたといふ手續規定違反があり、講和條約の成立要件としての合法性に若干問題があるとしても、これは講和條約の效力要件ではなく、講和條約としての效力があることに何ら疑問はない。

それゆゑ、講和條約(獨立喪失條約)に講和の條件として憲法改正義務がない限り、占領統治下での典憲改正の強制は國際法に違反する。

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