國體護持總論
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神道指令等の失效

さらに、最近においても、そのことが改めて正式に再確認されたのである。それは、GHQが昭和二十年十二月十五日付覺書を以て發令した、いはゆる神道指令とこれに基づく文部省の通達が桑港條約の發效によつて失效したとの政府の公式見解が明らかとなつたことである。それは、まづ、平成二十年三月二十七日の參議院文教科學委員會における衞藤晟一議員の質問に對して、渡海文部科學大臣は、次のとほり答辯した。それは、神道指令を受けて、國公立の小中學校が主催して神社佛閣、教會を訪問することを全面的に禁止することを命ずる昭和二十三年七月九日付で發出された文部省教科書局長通達『學習指導要領社會科編取扱について』に基づき、昭和二十四年十月二十五日付で發出された文部事務次官通達『社會科その他、初等および中等教育における宗教の取扱について』の一の(二)で「學校が主催して、靖國神社、護國神社(以前に護國神社あるいは招魂社であつたものを含む)および主として戰没者を祭つた神社を訪問してはならない。」と命じた點については、「靖國神社等の取扱ひについては既に失效してゐる。」と答辯し、さらに、同月三十一日の參議院文教科學委員會における西田昌司議員の同樣の質問に對しても、渡海文部科學大臣は、「日本がサンフランシスコ講和條約に調印しまして、これが發效したのが二十七年四月二十八日でございますから、これをもつて失效してゐると、かういふふうに理解をしていただけたら結構だと思ひます。」と答辯してゐる。そして、これらを踏まへて、平沼赳夫衆議院議員は、平成二十年五月十四日、衆議院議長河野洋平を經由して政府に對し『學校行事として靖國神社・護國神社訪問を禁じた文部事務官通達に關する質問趣意書』(文獻350)を提出し、各通達の法的根據及び桑港條約發效とともにこれらが「失效」したとする理由についてなどの質問がなされたところ、同月二十三日付で内閣總理大臣福田康夫の『衆議院議員平沼赳夫君提出學校行事として靖國神社・護國神社訪問を禁じた文部事務官通達に關する質問に對する答辯書(内閣衆質一六九第三八〇號)』(文獻351)が送付された。その内容によると、各通達の法的根據及び桑港條約發效とともにこれらが「失效」したとする理由といふ最も重要な點については回答せず、これらの各通達は「日本國との平和條約(昭和二十七年條約第五號)の發效により我が國が完全な主權を回復するに伴い覺書(神道指令)が效力を失つたことをもつて、失效したものと考える。」と回答したのである。

つまり、神道指令その他のGHQ指令及びこれを具體的に施行するするための國内的措置は、桑港條約の發效によつてすべて失效したといふのであるから、これは、桑港條約の效力によるものであり、占領憲法の效力によつてこれらが失效するものではないことを明確にしたことになる。

つまり、神道指令その他のGHQ指令を失效させたのは、桑港條約であつて占領憲法でないといふことは、桑港條約の方が占領憲法よりも上位の規範であるか、あるいは同位の規範として後法優位の原則による歸結であることを認めたことになるのである。その意味からしても、占領憲法が桑港條約と同樣の講和條約であることの根據となりうるのである。

そもそも、神道指令などのGHQ指令(講和行爲)は、すべて國際系であり國内系ではない。GHQ本部が東京にあり、そこから指令が出たことを以て國内系の法規とするやうな屬地主義解釋は噴飯ものと言はねばならない。すると、國際系の講和行爲である「神道指令を受けて」發出された文部省通達が、純粹に國内系の行政處分であるとしたら、これらは別系統の規範であるから、一方の消長が他方に直接影響することはありえないことになる。また、これと同樣に、特段の措置が講ぜられることなく、國際系の桑港條約の發效によつて、國内系の文部省通達が自動的に消滅することはあり得ない。國際系の桑港條約の發效によつて國際系の神道指令が當然に失效するのは、同じ規範系に屬する上位規範の内容によつて下位規範が廢止されることによるものであるが、行きがけの駄賃でもあるまいに、ついでに國内系の文部省通達も自動的に失效したといふのは説明がつかない。これは、占領下において、GHQ指令による國内系の形式による法令及び處分は、すべて講和行爲(國際系)であつたからこそ、桑港條約といふ「親龜」が轉けたら「子龜」(講和行爲)も轉けたことになるのである。

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