國體護持總論
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著書紹介

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講和條約説

では、これから、帝國憲法第七十六條第一項の規範轉換法理によつて、占領憲法が講和條約へと轉換して成立したとの眞正護憲論(新無效論)による「講和條約説」の具體的な説明に入るが、この講和條約説は、これまでの占領憲法に關する效力論爭において全く缺落してゐた視點を明らかにしたことに意義がある。ところが、これまで、これに對する理論上の檢討や批判が全くなされないまま、角を矯めて牛を殺すが如き揶揄の遠吠えしかなされなかつたのは、憲法學の怠慢と貧困さを物語るものといへる。

講和條約説の法的根據や國内系と國際系との關係などについては、これまで述べたとほりであり、占領統治の實態と占領憲法の制定經緯を實質的に判斷すれば、占領憲法が講和條約(東京條約、占領憲法條約)として位置づけられるといふことである。

しかし、決して、占領憲法の公文書に講和條約締結の際におけるGHQ全權としてのマッカーサーのサイン(署名)があるわけではない。占領憲法は、「濳りの講和條約」、「占領憲法の擬態」であるから、そんなものがあるはずもない。しかし、それでも、占領憲法の場合には、手續形式面についても講和條約としての體裁があつたと云へるのである。講和條約の締結は、法律の場合と異なり、帝國議會の協贊を必要としないので(第三十七條)、帝國議會でなされた審議は、帝國憲法の改正審議であるかの如く欺いた僞裝工作といふことになるが、帝國憲法改正案の發議と占領憲法の公布といふ天皇の外形的行爲は、内閣の輔弼による講和大權の行使と見なすことができるからである。いづれにせよ、講和條約の締結のための固有の手續と形式が履踐されてゐないとしても、そのやうな形式具備の有無を根據とすることなく、講和條約(東京條約、占領憲法條約)としての實質を備へてゐるといふことであり、それが帝國憲法第七十六條第一項によつて講和條約(東京條約、占領憲法條約)と評價される所以なのである。つまり、占領憲法は、その實質及び形式(手續)の兩面について、帝國憲法第七十六條第一項により講和條約(東京條約、占領憲法條約)として評價することができるのである。

そして、このことをさらに具體的に檢討すれば、占領憲法が講和條約(東京條約、占領憲法條約)として轉換評價しうる根據を主に以下の二つの視點から示すことができるのである。それは、第一に、法の「妥當性」に對應する「轉換適格性」であり、第二に、法の「實效性」に對應する「事實の慣習的集積」のことである。以下これらについて詳述する。

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