國體護持總論
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國内系の復元方法

對外的には、以上のやうな方策を講じた上で、國内的には、いよいよ正統憲法への復元とその改正準備のための手順を進めなければならない。しかし、それは性急なものであつてはならない。あくまでも法的安定性を考慮しなくてはならないのである。前にも述べた、無效規範の轉換などの法理も、實はこの法的安定性の維持から生まれたものである。

一般に、ある法が無效とされた場合、その法の下で既に形成された秩序もまた否定されることになる。この秩序は、法とその下位法令の施行に基づく處分や裁判による執行などによつて形成されたものである。しかし、一旦形成された秩序を如何なる理由と雖も否定することは竝大抵のことではない。多くの犧牲や混亂を生ぜしめるからである。その程度が大きければ大きいほど、覆滅する秩序の領域と範囲が廣ければ廣いほど、覆滅する法律状態が繼續してきた期間が長ければ長いほど、その犧牲と混亂は甚だしいものとなり、その原状回復措置が急激であればあるほど、あたかも「革命」にも似た現象を來すことになるのである。

ところで、占領憲法が正統憲法としては無效であり、帝國憲法が正統憲法の一つとしての地位を未だに維持してゐるといふ「憲法の状態」は、具體的にはどのやうな意味であるのか。そして、これまで占領憲法下での秩序は、どのやうな經過で原状回復がなされていくのかといふことが示されない限り、眞の意味で眞正護憲論(新無效論)を述べたことにはならないだらう。

罪を犯した者を論理的に批判する程度のことは素人でもできる。しかし、法律や實務に携はる者であれば、その者に對して、自首させた上で刑事訴訟手續を經て服役させ、可能であれば社會復歸のために盡力しなければならないのである。これと同樣に、これまでの舊無效論は、占領憲法が正統憲法としては無效であるとするだけで、はたしてこれがどの法形式の限度で有效なのか(相對無效)、あるいは、どのやうな法形式であつても無效なのか(絶對無效)について詳しく考察したものがなかつた。しかし、この考察こそが法的論理性の核心なのであつて、これを缺いたまま原状回復措置の方法に言及したとしても、その根據が不明確であつて説得力と論理性を缺く。このやうに、法的論理性と法的安定性とは、占領憲法無效論による原状回復措置を考察するについての最も重要な要素であつて、私見はこれを重視するものである。

ところが、舊無效論しか知らない人々は、假に、占領憲法を無效とする見解が正しいことを理論的には理解し得ても、前に述べたやうな、その後の回復措置に對する素朴で漠然とした疑問と不安を抱く。そして、眞正護憲論(新無效論)の内容が理解できず、先入觀により早とちりして誤解したまま、到底それを政治的に實現することはできないものと、まるで曲藝を受けた蚤のやうになつて諦めてしまふ。ましてや、占領憲法が有效であるとか、有效を前提として改正を唱へる人々は、特にこの法的安定性を盾にして、ここぞとばかりに眞正護憲論(新無效論)に反對してくる。それは、彼らもまた、敗戰利得者であり國體破壞者であるから、それを暴く眞正護憲論(新無效論)が恐ろしくてたまらないからである。そして、眞正護憲論(新無效論)と舊無效論を同一に論じて、眞正護憲論(新無效論)があたかも急進矯激なる思想による革命論であるの如く、あるいは現實から遊離した空論であるかのやうに喧傳して卑しめ、殊更に不安を煽る反對論者も現れるが、これは、少なくとも眞正護憲論(新無效論)に對する批判にはなり得ず、明らかに「爲にする言説」に他ならない。

では、以上のことを踏まへて國内系の復元方法を考察することになるが、次項以下では、獨立を保ち、しかも平時における復元措置の方法を中心に述べることになるが、その前に、他國からの侵略を受けたときなど國家有事の緊急時についてはどうするかについて考へることとする。

結論を先述すれば、國家有事において、帝國憲法第七十六條第一項及び占領憲法第七十三條に基づき、自衛隊の防衞出動(自衛隊法第七十六條)などをするについては、復元措置が事前に爲されてなくても全く問題がないのである。なぜならば、帝國憲法は今もなほ效力を有して現存してゐるのであるから、帝國憲法に照らして自衞隊は合憲の軍隊(皇軍)であり、自衞權の行使について何らの制約はない。もし、現行の自衞隊法の防衞出動の要件を滿たさない場合であつても、その制約は受けずに、我が國の安全と防衞のために必要な一切の行爲をすることができるのであつて、自衞隊法等の制約を一切無視して出動させることができる。これは、超法規的措置であるが、超憲法的措置ではない。帝國憲法が許容する範圍内であれば自衞隊の軍事行動は認められるのである。それゆゑ、國家緊急時までに、政治宣言としての以下の復元措置がなされてゐない場合であつても、何ら問題はないのである。

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