國體護持總論
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占領典憲の無效確認決議

では、眞正護憲論(新無效論)に基づいて、どのやうに手順を行ふのかについてその概要のみを解説する。

まづ、議會における占領憲法の無效確認決議である。これには先例がある。それは、昭和四十四年八月一日に、岡山縣の奈義町において、占領憲法の無效を宣言し、『大日本帝國憲法復原決議』(資料四十二)を可決した奈義町議會の壮擧がある。これは、帝國憲法下で締結された占領憲法(東京條約、占領憲法條約)が時際法的處理がなされてゐないことから、國内系秩序への編入がなされてはゐないものの、事實上において通用してゐることからして、その憲法的慣習法により設置された地方自治の立法機關(地方議會)の決議である。

それが「認識の復元」を行つたといふことなのである。この決議の法的性質は、實質的には「確認的決議」である。占領憲法が憲法として無效であり、帝國憲法が現存してゐるといふ「認識」を、「復元」といふ表現で行つたものであつて、新たにその時點で「復元させる」といふ「創設的決議」ではないのである。

この事實を先例として理解すると、まづ、國會、内閣又は最高裁判所などの國家機關による占領典範と占領憲法などの無效確認決議(無效宣言決議)や無效確認聲明を行ふことも復元の方法の一つである。どの機關が行つてもよい。多ければ多いほどよい。

その中でも、國會での無效確認決議が最も政治的宣言として相應しいものであるので、これについて説明する。

占領憲法は、國會を國權の最高機關(第四十一條)とするのであり、議院内閣制を採用してゐることから、占領典範と占領憲法が正統性などを缺く無效のものであることをこれらの國家機關が宣言(自白)すれば足りる。他の國家機關が行ふよりも、「國權の最高機關」であると自畫自贊してゐる國會がこれを行ふことの方が、政治的には望ましい。

この宣言は、無效であるものを無效であると認識する意志の表明であつて、新たに無效化すること(改めて廢止、失效させること)ではない。つまり、この決議の法的性質は、新たに法律關係又は法律状態を變化(形成)させ、規範を創設、廢止、改正したりする「法律行爲(立法行爲)」としての「創設的決議」ではなく、帝國憲法が現存し、占領憲法が憲法としては無效であつて、これまでの規範國體以下の憲法體系(法令の效力の劣後關係)に何ら變化がなかつたといふ法律状態(事實)を確認するだけの憲法解釋的な「確認的決議」であつて、單なる「事實行爲」にすぎない。

舊無效論のやうに、「有效の推定」とか「不遡及無效」とかの不可解な議論をして、決議があつてから初めて無效となるといふやうな性質のものではない。もし、舊無效論のやうなものであれば、それは「無效確認決議」とは云はないし、無效論の看板に僞りがあるものになつてしまふ。このやうな議論を回避できないこと自體が、舊無效論の法的安定性に對する不安を拭ひきれないことになつてゐるのである。

また、眞正護憲論(新無效論)によれば、これは、犯罪者の「自白」と同じ理屈である。犯罪者は、自白することによつて初めて犯罪を行つたことになるのではない。過去になした自己の犯罪行爲を自らが行つたことを認めることであつて、自白の時點で犯罪を行つたといふことではない。合法性も正統性もなく、妥當性も實效性もない者(占領憲法)が「そのとほり間違ひありませんでした。」と自白することである。勿論、それだけではなく、無效であつたことを證明する、これまでの法律的事實と歴史的事實が補強證據となり、その自白(無效宣言)に證據能力が認められ有罪(無效)の事實が確定するのである。勿論、これは占領憲法の「改正」ではないから、國會が行ふとしても、占領憲法第九十六條の改正手續によるものではない。占領憲法第五十六條に準じて、衆參兩議院の各々總議員の三分の一以上の出席によつて議事を開き、その出席議員の過半數で可決して、國會においてその意志を表明すれば足りる。しかも、衆參兩議院の雙方がしなければならないものでもない。いづれか一方だけでもよい。これは臣民に對して周知させるための「政治的決議」であつて、「法律的決議」ではないからである。

國會が自己否定的な決議をすることができるのかといふ疑問が起こりうるが、犯罪者本人であるから自白ができるのであつて、他人が代理して自白することはできないし、自白しても意味がない。占領憲法で設置された權力機關は、被害者である國家中樞に寄生した犯罪者の中心的な一部分(暴力の切れ端)であるから犯罪者本人そのものである。その本人が自白するのであるから、自白としての意味があるのであつて何ら問題はない。

また、眞正護憲論(新無效論)では、占領憲法は講和條約(東京條約、占領憲法條約)として成立したと評價されるのであり、その國内系における反射的效力としての憲法的慣習法に基づいて現在の國家機關が存在してゐるので、その機關によつて爲された立法、行政、司法及び地方公共團體における一切の規範定立行爲や處分などは有效であり、公務員の地位も保障されてゐる。それゆゑ、國會議員の地位も保障されてゐるので、このやうな決議も有效に行ふことができるのである。

なほ、無效確認決議は、このやうに通常の多數決で行ふことはできるが、それでは、これとは逆に、「有效確認決議」を多數決決議ですることができるかと云へば、それはできない。これは、前に述べたとほり、「追認」に該當する「立法行爲」であるから、追認適格性がないので不可能なのである。泥棒が「俺は無罪だ」と叫びながら、盜んだ物を「これは俺の物だ」とすることは「追認」ではなく、單なる開き直りといふものである。


次に、占領典範の無效確認決議について述べる。占領典範についても占領憲法の場合と同樣に無效確認決議をすることになる。占領典範は法律の形式であるが、これについても法律の廢止手續(改正手續)をすることは必ずしも必要ではない。占領典範は、國民の權利義務を規定した法律ではなく、皇族だけに適用があるものであるから、無効確認決議をすれば當然に排除される。ただし、明確性を重視するとすれば、占領典範を廢止する法律を議決するといふ形式的な立法手續を以て無效確認決議に代用することが許されないといふことではない。違憲の法律を排除するためには、それと同じ手續によつてなされるべきであるとする卷戻しの論理に基づけば、占領典範の廢止法として成立させ、違憲無效であることを廢止法の法文中に明記する方法でもよいことになる。むしろ、そのことよりも、これと同時に、明治典範の廢止が無效であることの確認決議がなされるべきである。

ただし、この明治典範の廢止は、帝國議會で議決されたものではないので、この點について若干言及する必要がある。帝國憲法第七十四條には、「皇室典範ノ改正ハ帝國議會ノ議ヲ經ルヲ要セス 皇室典範ヲ以テ此ノ憲法ノ條規ヲ變更スルコトヲ得ス」とあり、明治典範の廢止は、帝國議會が關與せず、昭和二十二年五月一日の『皇室典範及皇室典範增補廢止ノ件』によつて廢止されたことになつてゐる。しかし、明治典範廢止の無效理由について解説したとほり、「廢止」は「改正」には該當しないことも無效理由であるから、規範國體を顯現する明治典範がGHQの強制によつて形式上は廢止された事實とそれが無效であることを明らかにし、GHQの暴力を承繼して設置された「暴力の切れ端」である國會がそれを自白して、皇室及び皇族、さらに臣民に對する「謝罪決議」をなすことに大きな政治的意義がある。

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