國體護持總論
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本能論としての效用均衡理論

このやうに、「羊羹方式」と「燒き魚方式」を活用した權限分配原理は、具體的には樣々な分野で應用され、その汎用性は高いものがある。

人は、欲望を滿たせばそれに馴致し、さらなる欲望を求める。物欲、名譽欲、權勢欲、權力欲など、社會的地位を確立して行けば行くほど、その欲望は質も量も際限なく廣がる。しかし、「奢る者は心常に貧し」(譚子化書)といふ諺があるとほり、このやうな方向は、「恆心」を失ふ。そして、前にも述べたが「人ヲ玩ベバ德ヲ失ヒ、物ヲ玩ベバ志ヲ喪フ(玩人失德、玩物喪志)」(書經)といふ言葉もあり、これは「功」の欲望が「德」を失ふ原因となることを説いてゐるのである。つまり、これは、欲望を際限なく追求することが個體の破滅に至ることから、それを抑制するといふ本能の指令があることを意味する。そして、これを抑制し「德」を高めることが、それ以上の「欲望」(快樂)であることをも意味する。つまり、效用均衡理論といふのは、「本能の原理」なのである。「欲望や快樂を求めてはならない。」といふやうな禁欲主義を説いても、それが一部の者に受け入れられるだけで、社會全體としては實現不可能である。欲望や快樂は本能の機能から生まれるものであつて、これを無くすことは生命を絶つに等しい。かと云つて、それを野放しにすることが却つて身の破滅となることも本能に組み込まれた智惠である。本能を善として受け入れ、本能の智惠に學ばねばならない。

第一章で述べたが、集團の秩序を維持するための「權勢本能」と「從屬本能」とを内部分擔し、權勢を得た強者は、從屬した弱者に保護を與へ、弱者は強者に保護を求めるといふ本能の機能は、まさに效用均衡理論で説明ができる。

「欲望の均衡による德性の向上」によつて個體を維持し集團の秩序を維持する機能は個體に備はつた本能であり、このことは、家族、集落、部族、種族、そして、民族、國家及び世界に共通した秩序維持本能の働きである。しかし、本能の機能ではあつても、それを現實的に具體的に實現させるためには、規範を定立して計畫を實施する必要がある。規範を定立するのも秩序維持本能であることは既に述べたとほりである。

ところが、現在までの法制度は、このやうな理念で定立されたものではない。強者の論理でのみ定立され、「靜脈思考」がなかつたためである。それゆゑ、效用の均衡、欲望の均衡といふことが制度として確立されてゐなかつた。稀少な例としては、民法において、選擇債權における「選擇權の移轉」に關する規定(第四百八條)などが存在するだけである。

この效用均衡理論による秩序維持を國家において導入するには、國會議員、省廳官僚、裁判官などのすべての國家公務員のみならず、地方公共團體のすべて地方公務員にも適用されなければならない。そして、そのことは、國家のみならず、民間の會社や團體にもすべてについても同じであつて、そのことが全體としての國家と社會の安定を約束する。極小から極大に至るまでのフラクタル構造(雛形構造)こそが國家の安定した構造であり、それは世界についても同樣である。

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