國體護持總論
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國政監察院の設置

以上の考察によれば、自づと效用均衡理論による「淨化再生のメカニズム」に從つた政治制度の改革を中心とした國家機構の改造が具體的な方策を定めて實施することが必要となつてくる。

以下では、これに關する主な綱要案のみを明らかにしたい。




先づ、何らかの新たな淨化再生機關を創設することは必要であるが、その淨化再生裝置の基本的性能は、政治腐敗事實の「早期發見」、「早期公表」及び「早期是正」でなければならず、前述のやうに、その機關が樞軸權力から派生するものであれば全く意味がない。それは、總務省行政評價局(平成十三年一月の中央省廳再編前は、總務廳行政監察局)の機能とこれまでの實績をみれば一目瞭然である。從つて、效用均衡理論により、全く別の原理と選定母體から抽出されたものでなければならないことになる。

效用均衡理論を應用した「淨化再生裝置」を考案すれば、憲法上の獨立機關として「國政監察院」を設置し、その機關の組織は少數者によつて構成させ、一切の國政作用の執行と財政を監察しうる權限を付與するのである。その人事選定の方法としては、國政選擧において落選した者の中から選出することとし、議院内閣制と對應した制度とすることが一つの考へである。つまり、落選者は、「監察議會」の「監察議員」となつて、複數の國政監察員を選出し、國政監察院を「組閣」するといふ方式が妥當ではないかと考へる。ここでは、やはり「少數者の中の多數者」の選出といふ多數決原理を導入せざるを得ず、多數決原理固有の弊害も生ずるので、それを緩和するために、「累積投票制度」を採用するのがよい。監察議員は、國政監察員の選任者數と同數の投票數を持ち、一人の者にすべての票を投じてもよいし、何人かの者に票を分けて投じてもよい。これは、會社法において、少數株主の代表を取締役として送り込むことができる方式であるが(第三百四十二條參照)、これと同趣旨の方法を採用することによつて、多數決原理の弊害は少なくなるからである。

行政の執行とその足跡である會計とは不可分な關係にあることから、國政監察院は、會計檢査院(帝國憲法第七十二條、占領憲法第九十條)の組織及び權限を兼ねた憲法上の獨立機關として、立法・行政・司法の各權力に對する獨立性を付與し、これらの國政作用の業務執行及び財政管理など國政全般を監察對象とすることが不可缺である。そして、このことは、地方公共團體についても同樣であり、同樣の機關を設置することになる。德川吉宗が導入した「目安箱」の制度も監察の補助として活用すべきである。これらにより、原則として政界及び官界にはびこる殆どの政治腐敗の淨化が實現するであらう。

公平とか公正といふものは、量的には實現しえず、このやうに質的にのみ實現可能である。「少數者」は常に被支配者であり、「多數者」もまた、一部の支配者以外の大部分は全て被支配者であるから、右の淨化再生裝置は、いはば、支配者に對する被支配者の構造的な監視體制であり、官僚による統制(官僚統制、警察統制、全體主義)を抑制し、ある意味では「欲望と恐怖の均衡」による「支配者に對する恐怖政治」を實現することでもある。

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