國體護持總論
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一般的罷免制度の確立

このやうな、效用均衡理論による國家組織についての制度改革が必要であることは云ふまでもないが、これに加へて、個々の公務員についての選定罷免權(帝國憲法第十條、占領憲法第十五條)の行使態樣についても根本的に改革しなければならない。ただし、選定罷免權(任免權)は、大權事項(帝國憲法第十條)であるが、委任に馴染むものであることから、すべてが親裁によらなければならないものではない。それゆゑ、以下においては、任免の委任が可能で不親裁が許される一般の公務員について述べてみたい。

先づ、選定權については、議會の議員など選擧によつて選定(任命)されるべき場合は、任免大權が選擧制度に基づく選擧民に委任されてゐるのであるから、それによつて行使されることになる。しかし、選擧制度の持つ固有の性質と制約があるため、その權限の行使(投票)における任免の意志決定は相對的にならざるをえない。たとへば、現行の制度においては、国會議員の選擧區選擧では、選ぶ者も選ばれる者も同一の選擧區の者であつて、選擧民は同じ選擧區の立候補者群の中からしか選定しえないのであり、「越境投票」ができないことになつてゐる。しかし、國民代表制の趣旨からすると、どの選擧區から選定されても國民全體の代表となるといふ國民代表制を採つてゐることからすると、これを全面的に禁止しなければならない理由はなく、選擧制度工學的にこれを可能にする方向で檢討されるべきである。なぜならば、參政權の閉塞的情況について前述したとほり、投票における選擇肢の擴大は參政權の保障をより充實させることになるからである。

また、選擧制度によらない選定の場合は、その選定權を特定の公務員だけに委ねてはならない。選定の權限を有する合議體(選定委員會)を組織し、その構成員(委員)は獨自の選擧によつて選出するか、民間人や公務員の中から内閣(又は首長)が複數の者を推薦し、その推薦者の中から、議會が累積投票によつて一定の員數の委員を選定する方法がよい。勿論、この選定委員會の事後監察も國政観察院が行ふことになる。これもまた、效用均衡理論の應用と云へる。


これに對し、罷免權の行使(リコール)における意志決定は絶對的なものである。つまり、罷免とは、具體的な何らかの不正理由により特定の者に向けられるものであつて、數人の中から比較對照的に選出するといふ性質のものではないからである。從つて、少なくとも權力を分掌する全ての主要な公務員(國會議員、官僚、裁判官など)の「罷免」については直接制(リコール制)を導入する必要がある。古代ギリシアのオストラシズム(陶片追放)も參考になる。これについても、「支配者に對する恐怖政治」を實現させることが、有效な「淨化再生裝置」として機能しうるからである。

占領憲法第十五條第一項には、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、國民固有の權利である。」とし、同第二項には、「すべて公務員は、全體の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」と規定するものの、この規定については、國民主權の理念を表現したものであつて、「一部の奉仕者」となつて行動した公務員などを罷免することができる法律を制定する立法義務までを負ふものではないと解釋するのが一般である。しかし、これでは、欲望と恐怖の均衡は實現できない。それゆゑ、裁判官の彈劾裁判所と同樣に、公務員のすべてについて、公務員懲罰制度、公務員解雇請求、有責公務員に對する賠償請求の代表訴訟制度、臣民からの議會などに對する罷免請求、臣民から彈劾裁判所へ裁判官罷免請求訴訟などが提起できる制度を導入することが必要となる。

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