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トップページ > 各種論文目次 > H18.01.07 國體護持:条約考6(続き)

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復原改正への道

対外的には、以上のやうな方策を講じた上で、国内的には、いよいよ正統憲法への復原とその改正の手順を進めなければならない。しかし、それは性急なものであつてはならない。あくまでも法的安定性を考慮しなくてはならないのである。前にも述べた、無効行為(無効規範)の転換や追認といふ法理も、実はこの法的安定性の維持からくるものである。

一般に、ある法が廃止され、あるいは無効とされた場合、その法の下で既に形成された秩序もまた否定されることになる。この秩序は、法とその下位法令の施行に基づくものや裁判例などによつて形成されたものである。しかし、一旦形成された秩序を如何なる理由と雖も否定することは並大抵のことではない。多くの犠牲や混乱を生ぜしめるからである。その程度が大きければ大きいほど、覆される秩序形成の期間が長ければ長いほど、その犠牲と混乱は甚だしいものとなり、その原状回復措置が急激であればあるほど、あたかも「革命」にも似た現象を来すことになる。

ところで、占領憲法が正統憲法としては無効であり、帝國憲法が正統憲法としての地位を維持してゐるといふ「憲法の状態」は、具体的にはどのやうな意味であるのか。そして、これまで占領憲法下での秩序は、とのやうな経過で原状回復がなされていくのかといふことが示されない限り、真の意味で無効論を述べたことにはならないだらう。

罪を犯した者を論理的に批判する程度のことは素人でもできる。しかし、法律家であれば、その者に対して、自首させた上で刑事訴訟手続を経て服役させ、可能であれば社会復帰のために尽力しなければならないのである。これと同様に、これまでの無効論(旧無効論)は、占領憲法が正統憲法としては無効であるとするだけで、はたしてこれがどの法形式の限度で有効なのか(相対無効)、あるいは、どのやうな法形式としても無効なのか(絶対無効)について考察したものがなかつた。しかし、この考察こそが法的論理性の核心なのであつて、これを欠いたまま原状回復措置の方法に言及したとしても、その根拠が不明確であつて説得力と論理性を欠く。このやうに、法的論理性と法的安定性とは、占領憲法無効論による原状回復措置を考察するについての最も重要な要素であつて、私見はこれを重視するものである。

ところが、旧無効論しか知らない人々は、仮に、占領憲法を無効とする見解が正しいことを理解し得ても、その後の回復措置に対する素朴で漠然とした不安を抱く。ましてや、占領憲法が有効であるとか、有効を前提として改正を唱へる人々は、特にこの法的安定性を盾にして、ここぞとばかりに無効論に反対してくる。そして、この不安を根拠に、無効論があたかも急進矯激なる思想の革命論であるの如く、あるいは現実から遊離した空論であるかのやうに、無効論の過激さを喧伝して殊更に不安を煽る反対論者も現れるが、これは、旧無効論に妥当したとしても私見(新無効論)に対する批判にはなり得ない。明らかに「為にする言説」に他ならない。

では、どのやうに手順を行ふのかについてその概要のみを解説したい。

まづ、国会又は内閣などによる占領憲法と占領典範の無効宣言である。占領憲法は、国会を国権の最高機関(第41条)とするのであり、議院内閣制を採用してゐることから、占領憲法と占領典範が正統性を欠くことをこれらの国家機関が宣言(自白)すれば足りる。この宣言は、無効であるものを無効であるとする意志の表明であつて、新たに無効化すること(廃止、失効など)ではない。創設的な決議ではなく、確認的な決議である。これは、犯罪者の自白と同じ理屈である。正統性、合法性がない者(占領憲法)が「正統性も合法性もありませんでした」と自白することである。この自白に加へて、正統性、合法性がなかつたことの法律的事実と歴史的事実を補強証拠として有罪が宣告(無効宣言)されるのである。勿論、占領憲法の改正ではないので、占領憲法第96条によるものではない。占領典範は法律の形式であるが、これについても法律の廃止の手続(改正手続)をする必要もない。国会においても、その議決は、占領憲法第56条に基づくことで足りる。各議院の総議員の3分の1以上の出席があり、その過半数で決すればよい。衆議院の優越原則があるので、衆議院だけの決議でもよい。また、内閣の表明は、その方式に限定はなく、首相談話でも足りる。また、衆参両議院の議長及び最高裁判所長官の談話があれば尚更よい。いはば、国民に占領憲法及び占領典範の無効を周知させればよいのである。

そして、国会において、正統憲法復原に関する特別措置法を制定し、有効期間を定めた暫定的な臨時法(時限立法)として占領憲法を位置付け、復原改正措置の中心となる「正統憲法調査会」を内閣に設置して具体的な手順を検討することになる。正統憲法調査会は、帝國憲法の第一章から第七章に副つた小委員会と、占領憲法に加へられた地方自治小委員会の小委員会に細分化されて検討が始まる。さらに、各項目毎に小部会を設け、部分会議と全体会議で検討することになる。

そこでは、たとへば、①現行法令全体を正統憲法体系として整序し、正統憲法下では存続しえない法令の検討、②枢密院、貴族院などの既に欠損してゐる機関の復原ないしは代用、皇軍の組織その他統治機構全体の検討、③占領憲法下の法令、行政処分、確定判決のうち正統憲法体系下の整合性を欠くものについて、改廃、補正又は再審などの手続措置の検討、④臣民の権利及び義務についての検討、⑤家族制度の検討、⑥教育制度の検討、⑦地方自治制度の検討、⑧行財政、税制の検討、⑨正統憲法の改正すべき条項の検討などが行はれる。

特に、正統憲法の改正は不可避である。なぜならば、たとへば、これまで帝國議会が国会、貴族院が参議院、裁判所(大審院)が最高裁判所に代用されてきたことから、正統憲法下の機関が欠損した状態が継続してゐることから、その経過措置と最終的な機関整備がどうしても必要となるからである。

あくまでも現在の法体系、行政処分、確定判決の現状を維持することを原則としつつ、その改変については一定の経過措置期間を設けるなどの国家再生の総合的な事業となる。そして、これらの手続については広く意見聴取を行ひ、主要な部分については万機公論の公開討議とされ、最終的には、帝國憲法の改正も視野に入れて帝國憲法第73条の手続によつて改正がなされることになる。

そして、前述の「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」(昭和22年4月18日法律第72号)及び「日本国憲法施行の際現に効力を有する勅令の規定の効力等に関する政令」(昭和22年5月3日政令第14号)のやうに、正統憲法の復原改正の施行と同時に、正統憲法の復原改正施行の際にそれまで法令、処分、判決その他の国家行為として効力を有してゐたものの将来的な効力に関する基本法をも制定する必要がある。

また、昭和23年6月19日に衆参両議院でなされた教育勅語の排除・失効決議の無効確認決議を各議院で行ひ、教育基本法を廃止するなど教育行政の根本的な見直し、その他の重要事項の検討などを行ふ特別な小委員会もいくつか設置する必要がある。

そして、皇室典範については、占領典範の無効宣言がなされた後は、正統典範への復原とその後の改正及び運用を天皇及び皇族に奉還して御叡慮に従ひ、国会等の関与を一切排除する。

このやうな手続を経て、我が国は國體の支配する正統憲法と正統典範の国家として再生することになるのである。




ふりつもる み雪にたへていろかへぬ 松ぞををしき人もかくあれ」

昭和天皇御製、昭和21年 春

平成18年1月7日記す 南出喜久治

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