國體護持總論
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東京裁判の受容條項

桑港條約第十一條によれば、「日本國は、極東國際軍事裁判所竝びに日本國内及び國外の他の連合國戰爭犯罪法廷の裁判を受諾し、且つ、日本國で拘禁されている日本國民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする。これらの拘禁されている者を赦免し、減刑し、及び假出獄させる權限は、各事件について刑を課した一又は二以上の政府の決定及び日本國の勸告に基づく場合の外、行使することができない。極東國際軍事裁判所が刑を宣告した者については、この權限は、裁判所に代表者を出した政府の過半數の決定及び日本國の勸告に基づく場合の外、行使することができない。」と規定する。

この「裁判を受諾し」といふ翻譯部分は、「判決を受諾し」の意味であり、後段の「刑の執行」を繼續するための法的權限を付與するためのものであつて、その刑の執行の合法的根據を「判決」に求めるといふ純然たる法律問題にすぎない。これは、講和に際して交戰法規違反者の責任の免除條項(アムネスティ條項 amnesty clause)を設けるのが國際慣習法とされてゐることからして、その例外となる桑港條約第十一條を制限解釋するのが世界の國際法學會における定説だからである。

ところが、同條約第十一條を根據として、東京裁判を歴史觀として受け入れたとする謬説とこれに便乘する中韓の妄言があるが、そもそも、條約で歴史觀を拘束することなどはありえないことなのである。

しかも、同條約第二十五條によれば、「・・・第二十一條の規定を留保して、この條約は、ここに定義された連合國の一國でないいずれの國に對しても、いかなる權利、權原又は利益を與えるものではない。・・・」と定め、その第二十一條には、「この條約の第二十五條の規定にかかわらず、中國は、第十條及び第十四條(a)2の利益を受ける權利を有し、朝鮮は、この條約の第二條、第四條、第九條及び第十二條の利益を受ける權利を有する。」とある。ここでの「中國」とは中華民國のことであり、「朝鮮」とは大韓民國を意味するが、これと異なる見解もあるので、假に、いづれの見解に立つたとしても、そもそも同條約第十一條が除外されてゐるため、中國(中華民國及び中華人民共和國)及び朝鮮(大韓民國及び朝鮮民主主義人民共和國)との關係で、同第十一條の拘束力の範圍に關する解釋がいかやうであつても、何ら中韓との關係で影響されることは全くないのである。

しかし、東京裁判の判決を受容したことは、特定の歴史觀に拘束されるものではなく、中韓から容喙されることを受け入れる義務がないことは明らかであるとしても、しかし、この事實は重い。東京裁判は、裁判の名に値しないし、裁判としては無效であつても、やはり講和條件としては有效であり、これが破棄、訂正されるまでは受忍しなければならないのである。

ところで、桑港條約が發效した昭和二十七年四月二十八日の數日後である昭和二十七年五月一日に出された法務省法務總裁通知(法務府注意總發第五十二號『連合國の軍事裁判により刑に處せられた者の國内法上の取り扱いについて』の通牒)には、「さきに昭和二十五年七月八日附をもって『人の資格(任命若しくは就職又は罷免若しくは失職等にかかる條件又は許可、認可、登録若しくはその取消又は業務の停止等にかかる條件を含む)に關する法令の適用については、軍事裁判により刑に處せられた者は、日本の裁判所においてその刑に相當する刑に處せられた者と同樣に扱うべきものとする』旨の解釋を參考のため御通知したが、この解釋は、もともと總司令部當局の要請に基づいたものであり、平和條約の效力の發生とともに撤回されたものとするのが相當と思料するので、この旨御了承の上、貴部内閣關係機關にも徹底せしめられたい」とあり、これは、國内的には、桑港條約第十一條の國内的效力を否定し、東京裁判は無效であつて撤回されたものとして、東京裁判に服した者の名譽回復表明であつた。これと呼應して、昭和二十七年六月九日參議院本會議における『戰犯在所者の釋放等に關する決議』、同年十二月九日衆議院本會議における『戰爭犯罪による受刑者の釋放等に關する決議』、昭和二十八年八月三日衆議院本會議における『戰爭犯罪による受刑者の赦免に關する決議』、昭和三十年七月十九日衆議院本會議における『戰爭受刑者の即時釋放要請に關する決議』など數回に亘つてなされた全て戰爭受刑者に對する釋放要求、赦免の國會決議もまた同樣の名譽回復表明であつた。

これらの法的意味は何か。それは、桑港條約第十一條の國内的效力を否定する我が國の國内系における意思表明にとどまり、國際系における對外的(國際的)な表明ではない。後述するとほり、我が國は對外的にもこれを破棄することが可能であるが、それを未だ行つてゐないのである。これでは、眞の名譽回復措置とは云へない。眞の名譽回復措置としては、國内的にとどまらず、對外的なものでなければならず、アムネスティ條項といふ國際慣習法に違反したこの桑港條約第十一條の改正を正面から求め、あるいは、この條項の破棄、失效などを主張することでなければならないのである。次章でも述べるが、「東京裁判は無效である」とか、「戰犯は今や存在しない」などと、國内系の議論だけで滿足し、國際系の認識ができずに、これらを同列に混同して議論する見解があるが、このやうな見識では國際的には何らの説得力もないことを自覺すべきである。

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